最先端ヘッドフォンを進化させる


あふれる喜び、偽りのない真実:NightHawk、NightOwlそしてその先にあるもの

当社が初めて手掛けたヘッドフォン、NightHawkを製造するにあたり、AudioQuestとデザイナーのSkylar Grayは大きな野心的目的を掲げていました。私たちは、NightHawkを何か特別なものにしなければならないと感じていました。ただのヘッドフォンではなく、それを超えた製品を目指して。まず、ヘッドフォンについて何十年と信じられてきた間違った情報や見過ごされてきたことを頭から排除する努力をしました。当時は、マイラー製ドライバー振動板の無差別な使用、一見良さそうだけれども結局のところ効果がない補正カーブの誤用、家電業界にあまりにも浸透し過ぎていたその他多くの経費節約策が蔓延していました。

それらを念頭に置いて、Grayはゼロからスタートして完成に至るまで、ヘッドフォン設計のあらゆる側面を再評価し、イメージを再考しました。彼の使命は、AudioQuest創業者William E. Lowが提唱したもので、自らの情熱に従うこと、効率よく作業しつつもAudioQuest(と自身)が求める最高水準(音源信号に対するこの上ない愛、感謝そして敬意)を満たす製品を設計するために必要な時間を十分にかけることでした。

NightHawkは、他の全てのAudioQuest製品同様、ひらめきを与えることを目指して設計されています。NightHawkは2年にわたる開発の結果完成したモデルで、NightHawk Carbon、NightOwl Carbon、そして今後製造される全てのAudioQuestヘッドフォンの構想、具現化、測定の基準となっています。持続可能な技術、高品質素材が用いられたモデルで、無駄や余分なものを最小限に抑えつつも性能と価値を最大化する独創的思考が採用されています。音楽、映画やゲームとの強い精神的かつ知的な関わりを築くことを目指して設計された製品として。あふれる喜びの追及と偽りのない真実の追及という、Hi-Fiが持つ最も永続的で一見異なる2つの内容の追及にある隔たりを橋渡しするために設計された製品として。音楽ファン、ヘッドフォンマニア、全ての類の思想家、製造者、エンジニア、クリエーターをインスパイアするために設計された製品として。そして、全てのAuduoQuest製品同様、歪みを最小限に抑えた、音楽に害を与えないよう設計された製品として。


一般的なヘッドフォン設計の歪みメカニズム

世の中に完璧なスピーカーが存在しないのと同じように、完璧なケーブル、ソースコンポーネント、アンプは存在しません。ヘッドフォンも例外ではありません。しかし、歪みを低減させた、深く音楽に没頭できる心に響く疲れのないリスニング体験を目指した様々な試みが存在します。

一般的なヘッドフォン設計は、あまりにも長期にわたり、リスニング体験を妨げる多くの歪み発生メカニズムに悩まされてきました。

一般的な歪みメカニズムの多くには様々な要因が絡んでいます。例を挙げると、(1)非線形または非対称性コンプライアンスを示すドライバーサスペンション、(2)非対称な磁界、高インダクタンス、動作誘発性インダクタンスの大きな変化、吊り下げ式ボイスコイルを特徴とする粗野なモーター設計、(3)軽度から高度の磁束調整、(4)振動板表面に沿って振動反射を起こすエッジ固定型振動板終端などがあり、恐らく最大の要因となり得るのが、(5)高パフォーマンスよりも安く製造し儲けることを考え選択される部品や素材です。

今日のヘッドフォンドライバーに共通する10の歪みメカニズム

(1) 高中音域と高音域で変形しブレークアップするマイラー振動板。
(2) サラウンドのないエッジ固定式構造。ピストン動作がないため振動板表面で振動が反射。
(3) ボイスコイル巻型がない。そのため必然的に…
(4) 長く、吊り下がったボイスコイル。これは…
(5) 磁界ギャップに非対称に位置するため、…
(6) 細いワイヤーを多く巻き付けているためインダクタンスが高い。
(7) 磁石とモーターが小さいため磁界が弱く制約があるため素材選択や振動板/ボイスコイル構造で妥協しなければならない。
(8) 磁界ギャップが短いためボイスコイル全体が常に拡張したフリンジ領域(非線形性が高い領域)に入ってしまう。
(9) 空気孔の角が尖っているためエアフローが乱れ、高周波ノイズの原因となる。
(10) 有機不織布に比べると、規則的な模様の組織を持つ素材(金属やナイロンを編んだメッシュなど)で作られた減衰膜は歪みを生じやすい。

一般的なヘッドフォン設計は、リスニング体験を妨げる多くの歪み発生メカニズムに悩まされてきました。低周波性能に直接関連する主な歪みメカニズムには、非対称な通気口、適切なボイスコイル巻型がないことが原因となり得るボイスコイルの変形と揺動モード、移動域の増加と共に生じる磁界強度の減少などがあります。

高周波性能に直接関連する主な歪みメカニズムには、ドライバー空洞内のエアフローの乱れ、ピストン動作がない場合に生じる振動板のブレークアップ、振動板の素材による様々なレベルの有害なカラレーションなどがあります。

このような歪みメカニズムはどれも簡単に解決できるものではありませんが、ヘッドフォンで起こる歪みを和らげる又は最小限に抑える方法はたくさんあります。


歪みを低減し性能を最大化する設計

現在のヘッドフォンは、改善と発展の時を迎えています。低歪みと最大限の性能を叶えるよう設計されたAudioQuestヘッドフォンは、一般的なヘッドフォン設計に対する代替案を示しています。

NightHawk、NightOwlの硬いバイオセルロース製ドライバー振動板、ラバーサラウンド付き(左)と、本質的に不安定なマイラープラスチックを素材とした一般的な振動板、サラウンドなし(右)を比較。

AudioQuestのヘッドフォンは、対応するラバーサラウンドを備えたバイオセルロース製ドライバー振動板を用いているため、ピストン動作と無響終端が可能です。ボイスコイルが動くと、振動板が悪影響を与えることなく共鳴して動き、タイミング情報のコヒーレンスを慎重に制御、維持することができます。

NightHawk、NightOwlのボイスコイル集合体(左)には、硬い巻型があります。一般的なドライバー設計(右)の場合、ボイスコイルは支持されていないため正確な位置に留まることができません。そのため、高い歪みが発生するモーター構成を採用しなければなりません。

AudioQuestのヘッドフォンに用いられるボイスコイルは、低重量と剛度の組み合わせを考慮して選択した、ボイスコイルの形を保持するのに最適なクラフト紙の小さなシリンダーに注意深く巻き付けることで、不都合な屈曲を防ぎながら生産性の高い動きを可能にしました。さらに、ボイスコイルを巻型の限られた特定の位置、具体的には磁界ギャップ中央のゼロ静止点に位置するよう正確に巻き付けることで、高周波を正確に再現するのに理想的な対称性のある動作が生まれます。

NightHawkとNightOwlのドライバーバスケット(左)には振動板領域の周囲全体に空気孔があり、歪みを減らしています。一般的なドライバーバスケット(右)の場合は限られた場所にのみ空気孔が開いていて、振動板とボイスコイルが揺れ動き、低周波歪みが増える原因になります。

多くのヘッドフォン・ドライバーバスケットとは異なり、AudioQuestヘッドフォンに用いられるバスケットは空気孔が均等に並ぶスマート設計を用いているため、ボイスコイルが揺れて悪影響を及ぼすのを防いでいます。結果として生じる歪みがないため、低周波を制御しやすくなり、より自然な効果と伸びのある、クリーンでクリアな音を聞くことができます。

NightHawkの空気孔のエッジは等しい接線形なので(左)空気がスムーズに流れます。一般的なドライバーのエッジは尖っているため(右)乱流が発生し空気孔や内部空洞の周りに渦電流が増加します。

AudioQuestのヘッドフォンは、等しい接線形のエッジによりエアフローを最適化しています。エッジが尖っている空気孔に無理に空気を通すのではなく、空気が自然に流れるようにしました。これにより不快な高周波に対処することができます。

NightHawkとNightOwlの大きなSplit-Gapモーター(左)には硬い巻型が支える下受け式のボイスコイルを採用。1.2テスラの磁界ギャップがほぼ対称な動作を可能にしています。一般的なドライバーモーター(右)は非常に小さく、吊り下げ式のボイスコイルを用いていて巻型はありません。磁界ギャップが短く、かなり非対称な動作を示すため制御不能で非線形の挙動(歪み)を起こします。

AudioQuestのヘッドフォンに用いている特許取得済みSplit-Gapモーターは、相互変調歪みを劇的に減らす設計で、時間領域での実に驚くべき分解能を持つ、クリアでくっきりとした広帯域応答と、奥行きのある自然な詳細を表現した空間を実現しています。

レーザースキャン振動測定による高周波時の振動板動作の測定。NightHawkとNightOwlの均等で制御されたピストン動作(左)と一般的な不安定なドライバー動作(右)。

振動板に使われる各素材にはそれぞれ独自のカラレーション特性があり、他に比べて害が少ないものもあります。圧倒的多数のヘッドフォンは、歪みが聞こえやすい特性を持った、安価、軽量で本質的に薄いプラスチック素材であるマイラーを素材としたドライバー振動板を使用していますが、AudioQuestのヘッドフォンが採用するドライバー振動板はバイオセルロース製です。バイオセルロースは非常に優れたドライバー用素材で、マイラー特有の壊れやすさ、耳障り感、リンギングに影響されにくい特性を持っています。


高周波の強調&エッジの強化

ヘッドフォン設計者は様々なドライバー技術(ダイナミック型、平面磁気型または静電型)を利用できるはずなのですが、今日の大半のヘッドフォンは上方に傾くという明らかな特徴を持つ周波数レスポンスを表しています。つまり、中音域と低音域の周波数と比べて、高中音域と高音域の周波数が過度に強調されているのです。

エッジを不自然に強調した音楽をヘッドフォンで聴くと早い段階で聴き疲れが生じます。このような高周波の強調は、通過する全ての信号を吹き込む特異的な音の特徴、つまりカラレーションの一種です。このカラレーションの原因は2つあります。1つは、現在ISO標準となっているイコライザーカーブに基づくはっきりとしたチューニング、2つ目は振動板素材に広く用いられているマイラーの避けられない性質です。マイラーの高周波は、ブレークアップ周波数で歪みが増えるという特色の不安定性を持っています。

右の画像は、鮮やかなエッジ強調と高コントラストが施されていて一見詳細さに優れているように見えますが、これは見せかけの詳細であり、左のエッジ強調されていない画像が持つ本物の詳細が分かりにくくなっています。当社は、映像、オーディオその他全てのソースの本物の詳細は可能な限り忠実に再現すべきと考えています。(鷹の撮影者:Tony Hisgett)

このマイラーによる歪みと高周波の強調が組み合わさると、見せかけの詳細を伝える「エッジ強調」のような効果が生じます。事実、このように知覚される詳細は歪みおよび/またはカラレーションにすぎず、テレビのシャープネスを強くするのと同じように発生し、同様の効果をもたらします。一見画像がより詳細であるように見えますが、画面は元の画像を忠実に再現しているわけではありません。また、過度にシャープネスを増すと目を疲れさせるのと同様に、不自然なエッジ強調はヘッドフォンのオーディオリスニングの際の疲れを早く引き起こしかねません。


ここまでの道のり

今日の多くのヘッドフォンがこのような疲労感ある高中音域/高音域周波数の強調に悩まされているのは偶然ではありません。なぜなら、その設計時に、70年代半ばから80年代初めにかけて開発されたフリーフィールド(FF)カーブとディフューズフィールド(DF)「補正」カーブの影響を受けているからです。これらのカーブは頭内定位(IHL)を防ぎ、スピーカーで再現するつもりであった音楽をヘッドフォンで聴いた際の主観的品質を上げるための試みでした。5

FF補正カーブは、音響反射が全くない環境(無響室など)にスピーカーを設置し、その前方の所定の位置に測定マイクを置いて測定することで得られるカーブです。この測定を終えると、次にマイクを頭部と上半身からなるマネキンに(HATS)に置き換えます。HATSには、平均的な大人の音響特性を再現、研究するために調整した耳と口の端子が内蔵されています。再びレスポンスを測定するのですが、ここでは「ダミー」ヘッドの鼓膜で測定します。A特性をかけた後のこれら2つの測定値の差異がFF均等化カーブです。DFカーブは同じ方法で測定されますが、測定装置が全方向から届く音を測定するという点で異なります。9、109、10

フリーフィールドカーブの生成
前方の音源から来る音(無響環境)-鼓膜とリファレンスマイクで計測した各レスポンスの差異。A特性。

ディフューズフィールドカーブの生成
全角度から立体的に届く均等な音-鼓膜とリファレンスマイクで計測した各レスポンスの差異。A特性。

FFおよびDFイコライジング対象を導き出すこのようなISO標準手法は、聴力への安全性や産業上の利用のために騒音暴露を測定することを目的としていて、音質の感じ方を評価する上での有効性を主張していないことに考慮する必要があります9、10

また上に述べたように、ISO標準のFFおよびFDカーブはA特性(人の耳の相対的ラウドネスを補正するため、機器測定された音量レベルに適用される一般的な周波数カーブ)を用いています。しかし、A特性は30から50 dB SPL程度の静かな音にのみ有効ですが、測定手続きでは70 dB SPLが求められます11、15。そのため、A特性をかけたFFおよびDF補正カーブでは人の知覚にマッチしません。低周波は特に200 Hz以下で低く評価されてしまいます。

ヘッドフォンの周波数レスポンスにFF、DFまたは類似のイコライジングを行った場合、周波数が約2 kHzを越えると16 dB+の極端なブーストが起こります。当社はこのような補正カーブは適切ではないと考えます。その理由を説明するには、まず人の聴覚システムを説明する必要があります。

鼓膜に音が届くと、その音は頭、肩、胴体、外耳(耳介)、外耳道そして毛髪や衣服にも反射、反響、吸収され、スペクトル的に「色付け」されます1、19。このスペクトル・カラレーションは、一定の周波数における一連の共振(ピーク)と反共振(ノッチ)としてグラフ表示されます。これらの効果は合わせてフィルターまたは伝達関数としてとらえることができ、頭部伝達関数(HRTF)とも呼ばれます。周波数とこれらの効果の振幅との関連性は、脳内で音の位置を垂直面、つまり前方、後方、上または下から届く音を把握する際に用いられます。

しかし、実際に音を定位するとき、つまりリスナーが空間にある具体的な音の位置または源を特定するプロセスに用いられる主要なメカニズムは、頭の動きを加味して特定を行う両耳間レベル差(ILD)と両耳間時間差(ITD)です2、4

両耳間レベル差とは、左耳と右耳が感じる音の強度の差を意味します。両耳間時間差とは、左耳と右耳に音が到達する時間の差を意味します。これらの機能は音を定位するときの重要な手助けになり、頭を基点とした音源の方向、角度または距離を知る手がかりになります。

簡単にまとめると、脳は耳からインプットした音を分析するデコーダーと考えることができ、ILD、ITDおよびHRTFを用いて特定の方向から届く音を認識します。

また、頭が少しでも動くと、定位の精度が上がります3

頭の前方と後方から発生する音があり、それぞれの耳への距離が同じ場合は定位しにくくなります。しかし、頭の向きがほんの少しだけ変わると、ILDとITDの数値が変わり、その音を簡単に定位できるようになります。

ごく一般的かつ簡単に言うと、ヘッドフォンはリスナーの頭の中に存在すると思われる音を再生する傾向があると言えます。音場はフラットであるか存在せず、次元性に欠けます。関連する音を耳/脳に理解させる負担は聴き疲れの原因になります。それに対し、室内に適切に設置されたスピーカーは自然界で起こる音によく似た雰囲気と空間手がかりを持つ性能を実現することができます。このとき、音はリスナーの頭の外から出現します。ヘッドフォンの専門用語では、前者の効果は頭内定位として知られ、後者は表出化として知られています。

もちろん、スピーカーとヘッドフォンが作り出すリスニング体験の違いはこれ以外にもあり、それぞれに長所と欠点があります。

当社のヘッドフォン・フライトマニュアルでは、設計者であるSkylar Grayがこのように説明しています。「ヘッドフォンを通じてスピーカーのリスニング体験を再現しようとするのではなく、ヘッドフォンのリスニング体験にふさわしいスピーカー設計の要素を適切に組み入れました。」Grayの言葉の根本にあるのは、室内でスピーカーを用いて音楽を聴くのはヘッドフォンから音楽を聴くのとは違う、というシンプルな考えです。だからこそ、スピーカーとヘッドフォンには異なる設計目標と設計過程が必要なのです。

スピーカーとヘッドフォンには異なる設計目標と設計過程が必要です。残念なことに、ヘッドフォンで表現される音が頭と耳のフィルタリング特性をバイパスするという仮定に基づき、FFおよびDF補正カーブが今でもヘッドフォン設計に用いられています8。オーバーイヤー型ヘッドフォンについては、この主張はほぼ間違いです。頭と胴体のスペクトル効果は確かにバイパスされますが、耳介、外耳道と鼓膜のスペクトル効果はバイパスされません。つまり、FFおよびDF補正カーブでは、実際にはバイパスされない耳介と外耳道の伝達関数を強調してしまいます。そのため、リスナーの耳介と外耳道に関する伝達関数と、標準化された補正カーブを生成するのに使用するダミーヘッド(さらに言うならばその他の生命体)の伝達関数の間に差が生じます。さらに複雑なことに、先程のリスナーの伝達関数は、開発段階でヘッドフォンの測定とチューニングに用いるダミーヘッドの伝達関数とも異なります。脳は逆フィルターによりリスナーの耳介と耳が及ぼす影響を補正することがほぼ可能ですが、ヘッドフォンのFFまたはDFイコライザーカーブによる中音域と高音域周波数の過度なブーストを補正することはできません。そのため、音質とオーディオ信号のバランスが歪められてしまいます。

上記のとおり、FFおよびDF補正を前提として頭部胴体で起こるスペクトル・カラレーションに対処すべくヘッドフォンを補正した場合、頭内定位を解消し、表出化を促進し、音質が向上すると考えられてきました7

しかし、当社はFFおよびDF補正では表出化や定位効果を望み通りに得られないと理解しています。むしろ、ヘッドフォンで音の表出化を実現するには動的にシミュレーションしたILD、ITDが必要です。またこれらには及ばないものの、頭の動きをモニターし、その結果生じる知覚の変化を理解する頭部追跡法であるHRTFも必要になります6、23

当社は、ルームゲイン、頭部と胴体に対する反射/回折、そして衣服や毛髪による吸収(該当する場合)といった、ヘッドフォンで聴いたときにバイパスされるスペクトル効果のみをイコライジングすべきと仮定しています。

まとめると、フリーフィールド(FF)、ディフューズフィールド(DF)および派生的なイコライザーカーブ/ヘッドフォンのレスポンスターゲットにはいくつかの問題があります。

  • 音質ではなく聴力への安全性や産業上の利用のためにISO標準を用いていること。
  • 約50 dB SPLを超えた音には無効なA特性を用いていること。
  • ヘッドフォンで音を聞くときリスナーの頭と耳は常にバイパスされるという間違った前提に基づき用いられているため、脳が補正できないスペクトル・カラレーションをもたらし、中音域と高音域周波数の強調を引き起こすこと。
  • 毛髪と衣服から発生するスペクトル・カラレーションを考慮していないこと。
  • ルーム・レスポンス・カーブを考慮していないため、高音域が過度に強調され、低音域が十分に強調されないこと。
  • 定式化されている主な問題の1つである頭内定位を解決していないこと。
  • 最後に、高音域周波数レスポンスが約2 kHz以降で過度に強調されるヘッドフォンを生み出していること。このようなヘッドフォンは徐々に聴き疲れを生じさせます。

解決策

AudioQuestのヘッドフォンは、音の鮮明さを錯覚させるために高周波を強調することはありません。

約2–8 kHz以上の周波数で大きなブースト(+5 dB以上)を示すヘッドフォンとは異なり、AudioQuestのヘッドフォンは室内音響、頭部伝達関数、聴覚生理学、近代測量技術の分野の研究に基づいた知覚的にバランスの取れた周波数レスポンスを示します。事実、AudioQuestのヘッドフォンは、あらゆる価格帯のほとんどのヘッドフォンと比べて、低周波数と高周波数両方の極限でより大きな拡張と優れた直線性を表します。(注:8 kHzを超えた周波数のレスポンスを正確に測定する妥当な手段はありません16。「ヘッドフォンの測定に関する注意事項」をご参照ください。)

他社製の非常に多くのヘッドフォンが高周波をブーストするのは、上に説明したフリーフィールドまたはディフューズフィールド・イコライジングに拠るところが大きいです。また、他社製の非常に多くのヘッドフォンが高い周波数で+5 dB以上ブーストするため、その音に慣れているリスナーが初めてAudioQuest製ヘッドフォンを聴いたときに高音域が奥まって感じるかもしれません。しかし実際は、AudioQuest製ヘッドフォンのレスポンスの方が、高中音域から高音域でより自然な詳細と広がりを示しています。このことはリスニング時間が長くなると実感いただけます。当社では、AudioQuest製ヘッドフォンの利用者の皆様に、本格的な音質評価を行う前に150時間の積極的な再生時間を設けることをお勧めしています。そうすることで、バイオセルロース製ドライバー振動板とラバーサラウンドを慣らすのに十分な時間が取れるとともに、一部のリスナーが他にはない低歪みに慣れるための時間を取ることができます。

NightHawkの周波数レスポンスを得るには、室内、スタジオ、コンサートホール、劇場などのスピーカーに理想的なカーブから始めることが可能です。このカーブはISO標準(ISO 2969)カーブで、B&K、Harman、Etymotic、Dolby、THXその他による様々な研究で十分な裏付けがされています17、20、21、22

しかし前に述べたように、ヘッドフォンによるリスニング体験と室内でスピーカーから聞くことは明らかに違います。サーカムオーラル型(オーバーイヤー型)ヘッドフォンで音を聴く場合、室内スピーカー(またはライブ演奏)で聴いたときに通常出現する頭部、胴体、肩、毛髪や衣服による音響への影響はバイパスされます。バイパスされる主な影響には、体によって生じる低域および中域周波数でのゲイン、衣服と毛髪による中音の吸収と肩、胴体と頭部の回折効果、そして頭との境界相互作用による高域周波数でのわずかなゲインなどがあります19、23、24。なお、耳介、外耳道と鼓膜による影響はバイパスされません。

結果として生じる伝達関数を理想的な室内レスポンスに適用すると、理想的な室内音を再現する目標の周波数レスポンスを得られるとともに、ヘッドフォンで聴いたときにバイパスされる音響現象を考慮することもできます。その結果、聴き疲れを引き起こすエッジ強調や歪みを抑えながら、よりバランスの取れた一貫性のある自然な音、つまり低周波数と高周波数の極限から適切に広がる、本物の分解能と詳細を表す音を生み出します。


当社の6種類の当初測定値(平均値を赤の実線で表示)を見るには「NightHawkの生測定値」をクリックしてください。KEMAR頭部胴体シミュレーターの代表的な伝達関数を見るには「-HATSの影響」をクリックしてください。当社の周波数レスポンス平均値からHATSの影響を差し引くには、「=補正周波数レスポンス」をクリックしてください。赤い実線は測定した当社目標レスポンス(黄色い破線)と比較したNightHawkの補正レスポンスを表します。

上のグラフに見られるように、当社は異なる5か所または既定の装着位置(NightHawk(NH)中心、NH前方、NH後方、NH下部、NH上部、再びNH中心)で6回測定を行い、NightHawkの周波数レスポンスを得ます。中心位置は、リスナーの頭と耳に自然かつ理想的な形でNightHawkを配置した場合を再現することを意図しています。快適性を最適化する配置で、リスナーの耳介にかかる圧力を最小限に抑えながら、適切な密閉感を生み出すイヤーカップの性能を最大化します。前方、後方、下部、上部の位置では、中心位置から離れた増分(通常は3から5 mm)変化を調べます。

中央値を2度測定することで、当社は主な3つの目的を達成しています。1つ目は理想的な配置から潜在的な偏差を考慮すること、2つ目は何といっても大部分のリスナーの使用感を最も表す中心位置の重要性を強調すること、3つ目はリスニングを2回行うとその度に装着位置がわずかにずれてしまいがちなことから、ヘッドフォンを用いた本物のリスニング体験を再現することです。

6回の全測定値の平均を得ることは、個々の測定における異常値を排除するのに役立ちます。そのような結果を得ることで、当社はNightHawkの性能に関する状況をより良く理解することができ、人それぞれ異なる伝達関数がある場合に、どのようにNightHawkの音を感じるのかを知る手がかりを掴むことができます。

既述したとおり、頭部胴体シミュレーター(HATS)は固有の伝達関数を有しています。HATSの伝達関数がNightHawkの周波数レスポンスに反映されることは避けたいところであり、むしろ排除すべきと考えます。つまり、当社がこれらの測定値に関して知りたいのはヘッドフォンがどう機能するかであり、HATSの反応に興味があるわけではありません。思い出してほしいのは、脳は逆フィルターによりリスナーの耳介と耳が及ぼす影響を補正することが可能であり、また実際に補正している可能性が高いですが、HATS本体の「耳」が及ぼす影響を補正することはできないということです。もしもHATSの伝達関数をNightHawkの測定値に加えていたら、実際の性能を示すデータを改悪していたかもしれません。同様に、NightHawkの開発過程でHATSの伝達関数を用いていたら、オーディオ信号の音質とバランスを損ねたヘッドフォンしか作れなかったかもしれません。

これはNightHawkに限るものではありません。測定を行う全てのヘッドフォンに該当します。ヘッドフォンの測定にHATSの伝達関数を含めると、ヘッドフォンの性能を示すデータを改悪してしまいます。

しかし、HATSの伝達関数を排除するには、まずそれを特定しなければなりません。HATSの伝達関数を推定するため、当社は何十台もの他社製ハイエンドヘッドフォンの周波数レスポンスを詳しく考察し、共通点を突き止め、HATSの影響を特定しました。その後、当社の検証結果を他の包括的研究の結果を用いて裏付けました18。このようにしてHATSの影響を特定し、当社の生測定値から排除することに成功しました。

最後のグラフはNightHawkの周波数レスポンス(赤線)と高評価の主要モデルの周波数レスポンス(青線)を示しています。青線を見ると、高中音域と高音域が3-5 dB強調されているとともに低周波数レスポンスが大きく欠けており、10 kHzを超えた超高周波数で拡張が大幅に少ないことが分かります。

それと比べると、NightHawkの周波数レスポンスは平坦、スムーズでバランスが良く、周波数の極限は有効に拡張されています。何よりも、不自然にブーストまたは強調された周波数レスポンスが微塵も見られません。

主要モデルのヘッドフォンは、通常のリスニング状態にあると、オーディオ信号の高中音域と高音域の要素を押し出します。恐らく「きらめき」または詳細をより感じられる音を生み出すことになるのですが、一方で中音域の明瞭さ、低音の制御とインパクト、そして極限の拡張が犠牲になります。

テレビ画面のシャープネス制御を思い返してみると、高コントラストの画像は一見詳細さに優れているように見えますが、そのような人工的な詳細のせいで、より自然でニュートラルな画像が持つ本物の詳細が分かりにくくなっています。ヘッドフォン(またはあらゆる音響機器)による音楽再生も同様です。リスナーの耳/心は一番分かりやすい部分、この例では高中音域と高音域の強調に注目しがちですが、周波数レスポンスの他の意味深い(そして楽しい)側面から離れてしまいます。

AudioQuestのヘッドフォンは、周波数レスポンスのどの面も過度に強調することはありません。低音域、中音域そして高音域を十分に表現し明確に再現することができ、元のオーディオ信号を損ねることのない音を実現します。リスナーは、ヘッドフォンを聴くのではなく、音楽の全てを聴くことができます。

並外れた低歪みとスムーズで自然な周波数レスポンスを組み合わせたAudioQuestのヘッドフォンは、リスニング経験を尊敬の念を持って知的に実現します。夢中になれる、没頭できる、鮮やかで解像度がある音を、そして今日の多くのヘッドフォンに共通する過度な強調のない音を生み出します。


ヘッドフォンの測定に関する注意事項

プロ仕様の頭部胴体シミュレーター(HATS)を製作する際の基準では、100 Hzから8 kHzの間の標準化性能のみを定めています9、10、11、13、14、16。この基準もまた、ヘッドフォン等の変換装置とは対照的に、聴力保護を目的としたディフューズフィールド(DF)測定技術を参考にしていて、63 Hzから8 kHzまでの8つの周波数のみを試験するよう定めています12。このような分解能の低い規格はHATS装置による測定値の確実性を制限するもので、特に高性能ヘッドフォン設計を適応する際に重要になります。

既存の基準では人の知覚システムに適切に対処することができず、無効な特性フィルターが適用され、皮質の逆処理が考慮されていません。また、ヘッドフォンを分圧室で操作した場合と、例えばスピーカーを完全に波面伝播操作した場合とを比べたときの知覚的な差異を正確に特徴付けていません。

8 kHz超の測定については、確実性がほとんど確立されていません。そのため、ヘッドフォンの性能グラフを生成するにあたり用いられる商業的に利用可能な測定装置や方法には実際のところ限界があります。このことはイヤーシミュレーターを使用して製作される全てのヘッドフォンについても当てはまるということに注意しなければなりません。当社は、100 Hz以下の測定についてはある程度の確実性を持っていますが、8 kHz超のヘッドフォン測定については確実性がほとんど確立されていません。ヘッドフォンの測定値を評価するときは、このことに留意しなければなりません。

AudioQuestは、現時点で正確性が保証されていない当社の測定分野を特定(破線を用いて)することにしました。ヘッドフォンとオーディオ愛好家の間のより開かれた、生産的で情報に基づくコミュニケーションのため、他のメーカー、出版・報道機関や業界団体も同じ取り組みを行うことを願ってやみません。

当社は以下の装置およびソフトウェアを用いて測定しています。

  • G.R.A.S. 45BB KEMAR頭部と胴体のシミュレーター(2013年モデル)
  • G.R.A.S. 43AG 耳と頬のシミュレーター
  • G.R.A.S. 人口耳介(KB0060/61, KB0065/66, KB1065/66)
  • G.R.A.S. 12AL 定電流電源
  • RME Fireface UCオーディオインターフェイス
  • Violectric HPA V100 ヘッドフォンアンプ
  • Listen, Inc. SoundCheck オーディオ測定ソフトウェア
  • ARTA オーディオ測定&分析ソフトウェア
  • ケーブル:AudioQuest Carbon USB | Red River & Yukonアナログ相互接続
  • Herzanサイレンサー・カスタム・アコースティック・エンクロージャー:原子間力顕微鏡用
  • IEC 942 クラス2 ピストンフォン
  • AudioQuest Q-Feet

参考文献

  1. Shaw, E. A. G. 「フリーサウンドフィールドにより発生する外耳道圧」米国音響学会誌:465. 印刷物.
  2. Fujiki Nobuya, Klaus A.J. Riederer, Veikko Jousmaki, Jyrki P. Makela, Riitta Hari 「仮想聴覚空間のヒト大脳皮質:音の方位とエレベーション間の差異」欧州神経科学学会誌:2207-213. 印刷物.
  3. Mcanally, Ken I., Russell L. Martin. 「頭部移動を伴う音の定位:3D聴覚表示に対する影響」 神経科学の最前線 (2014). 印刷物
  4. Macpherson, Ewan. 「狭帯域音の定位に必要な最小限の頭部移動」 米国聴覚学会 2008年度年次会議、アリゾナ州スコッツデール, 2008年1月1日 講演.
  5. Theile, Günther. 「高品質スタジオヘッドフォンの周波数レスポンスの標準化にあたって」第77回AES会議、ドイツ国ハンブルグ, 1985年3月5~8日 会議資料.
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